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やまねむ
 山眠る
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 兵頭は、嶺次郎がそうであるように高耶もまた革命家であると考えていた。
 真の革命家というものは、自分の思想が他人を否応なく巻き込むことに自覚的だ。彼は、長らくその能力を封印してきた。
 しかし、力は開放された。結果、為されたものは、およそ兵頭の思う革命とはかけ離れたものではあったけれど、高耶自身としてはその実力をやっと発揮できるようになったのだ。喜ばしいことではないか。
 そう、思うのに。
 兵頭の表情は、決して晴れやかではない。


「いつまで、こんなところにおるつもりですか」
 開口一番、そう言った。
「兵頭」
 紙衣を纏い、壇上から降りてきた高耶が、驚いてこちらをみる。
「こんなところにいていいのか」
 兵頭は、久しぶりに剣山までやってきていた。
 高耶の耳には既に、兵頭へ外地赴任の命が下ったことが伝わっていたようだ。
 出発日時はまだ未定だが、正直引継ぎやら何やらで剣山などにいる場合では無い。
 だか、兵頭にはどうしてもやらねばいけないことがあった。
「発つ前に、確認しておきたいことがあります」
「……何だ」
 高耶の赤い両眼がこちらを向く。
 もちろん遮毒コンタクトをしているから、兵頭が血を吐くことも無い。
「さっきも言いました。いつまでこんな場所に篭っちょるつもりなんですか」
「……《裏四国》が安定するまで、だ」
「それは一体いつのことです」
「もうすぐだ」
「もうすぐ?随分曖昧ですね」
「……………」
 最近の高耶はいつもこうだ。何かあるとすぐに黙り込んでしまう。昔のような、歯切れのいい言葉を久しく聞いていない。
 兵頭は話題を変えた。
「橘はどこです」
 決定的な一言を放ったつもりだったのに、高耶は表情ひとつ変えることもなく、しばらく黙った後で小さく口を開いただけだった。
「……少し冷える。部屋に入ろう」
 自分の肩をさするような動作をした後で、ゆっくりと歩き出す。
 仕方なく、兵頭も後に続いた。


 裏四国成立後、高耶は剣山から出ようとはしなかった。
 最初のうちは体力の回復を図るため、その後は《裏四国》を安定させる修法を施すため、という名目である。
 そして、橘義明もまた、神官として結界の安定修法に関わっていると隊内には通達されている。
 が、実際のところ、嶺次郎から橘に対する復帰許可が下りていないのだと、兵頭は聞いていた。
 嶺次郎は大転換直前の橘の行為をうやむやにはしなかった。もし橘に叛意があるというのなら、見逃すわけにはいかない。けれど言葉が戻らないから、尋問も出来ない。結果、軟禁状態となっているのだ。
 しかし、その軟禁場所が問題だ。
 どこか収容設備のあるアジトでいいはずなのだ。
 高耶と共にここにいる理由はない。
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